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第一部  講演会

どうも皆さんこんにちは。夏原でございます。今日は、今ご説明があったような形で少しお話をさせていただければと思っております。最初に簡単な自己紹介を兼ねまして。元々私は長らくルポライターをしておりまして、その頃からいろんな詐欺であるとか、悪徳商法、あるいは暴力団のこととかなどを書いてきたわけですが、ちょっとご縁がありまして、ここ15、6年は漫画の原作や原案という形で提供させていただいているという状況です。

【悪質商法を扱うコミック】

これも、昨年またドラマになったんでご存知かとは思うんですけど、『クロサギ』という作品で、これが実質的には最初のいわゆる社会派って言われる作品かなと思います。『クロサギ』は詐欺師が詐欺師を騙すという設定の話なんですが、当時はまだ特殊詐欺が増えだした頃だったんですね。まだまだ特殊詐欺よりもそれ以前の、もうちょっと手の混んだ詐欺ですね。いろんな道具仕立てがあったりとか、様々な人間が関わったり、有名なところで言うとM資金詐欺とかそういうものがまだあった頃です。ただその後はものすごい勢いで特殊詐欺が増えました。特殊詐欺と架空請求っていうのがその頃からものすごく増えた時代だったんですね。そういうこともあって、『クロサギ』はざっと10年間連載しまして、2回ドラマになって映画にもなりましたけど、非常に私が残念なのは、詐欺自体は全く減らない上に被害者は増える一方という現実ですよね。やっぱり、ほとんどの人が自分は騙されないっていう意識が強すぎて、騙されて初めて「あ、私も騙された」という感じになってしまう。こういう『クロサギ』をやってます。

それから現在やってる作品としては、『正直不動産』という。これもNHKでドラマになって、また来年やりますけど。これに関して言うと、不動産の取引というのが非常に情報が偏頗で、業者側が圧倒的に情報を握っていて、一般ユーザーは知らないことだらけ。その値段がそもそも正当なのかどうかを判別する基準すらないという特殊な業界で、一般消費者がどうしても被害に遭いやすい。また、不動産業界の中にある非常に悪質な会社、また悪質な体質・風習、そういうものが多すぎるということで始めた作品です。なので、扱うテーマは不動産ですが、私の考え方としては『クロサギ』なんかと同じところがかなり強くあるわけです。

そして、今日ここに貼ってありますが、『カモのネギには毒がある』という漫画。これも今やっている漫画でして。これはどういう漫画かと言うと、そもそも経済学って何のためにあるんだろうと。世の中には経済学者とか経済評論家とかテレビにもよく出てきますけども、一体あの人たちは何のためにいるんだろうと。あんまり言ってはいけないんですけどね、いわゆる経済予測みたいなことを言ってほとんどが当たらないわけですよ。ところが、海外に目を向けてみますと、大変優秀な経済学者というのがいる。ところが、日本の経済学者というのが、古いというか所詮は学者さんのお遊びみたいなことがある。やっぱりいろいろ調べていくと、海外の経済学者というのは非常に実践派が多くてですね、お金持ちもとても多いです。自分の経済理論を実践に適用して利益を得る。あるいは企業と組んだ上で経済予測を立てて、それに合わせた投資を行う。あるいは経済の中の金融工学ですよね。いろんなファンドとかそういうものにも情報を提供したり、分析をしたり、研究をしたりしている。もしそういう経済学者が日本にいて、そして今の世の中で経済というものを非常に悪い利用をしている人たちが、弱くて情報の少ない人たちをいかに騙していかに金を引っ張りあげていくかというような中で、そういうのが増えてる世の中であると。これの問題点としては、ストレートにそれを犯罪だと呼べないということですね。非常に悪質化しているんですね。日本の経済の1つの問題点としては、そういう悪用をしても罰する法律がなかったり、あるいは逃げ切ってしまったり、そういう人が結構いる。しかも一定額の資産を彼らが作ったことで、あたかも識者であるかのようにテレビに出てきて喋ったりとか、自分のYouTubeチャンネルを開いたりとか。彼らは、責務を果たさずに、金を持っているということだけで成功者面をしている。今の日本を見ていると、そういう人が非常に多い。そういう中で、やはり正しい意味での経済というのはそもそも何なんだろうというのをテーマにして始まったのがこの『カモのネギには毒がある』という作品で、この作品に関して言うと、作画の甲斐谷先生が過去に『ライヤーゲーム』であるとかそういうヒット作をたくさん書かれている先生で、私とコンビでそれをやっている。今度6巻が出るみたいな感じで今進んでいる。今私がやっているメインの仕事の中の漫画という意味で言いますと、そんな感じになります。

【カモリズム社会の現実】

繰り返しになりますけど、やっぱり騙すとか騙されるということが自分の身に降りかかるまで現実感がない。それはしょうがないことではあるんですけど、騙される可能性はほぼ全員があるということを、まず認識しないといけないと思うんですね。今の日本の中で見ていくと、騙されることというのはものすごく多くてですね、皆さんの中でも例えばスマートフォンで無料ゲームなんかをやっているとコマーシャルがよく出ると思うんですが、あの手のCMというのはほとんどが詐欺的な商品であったり、詐欺的な契約であったりに呼び込むためのものなんですね。だから、「本来9800円だけれど初回は980円です」、そして「いつでも解約できます」と書いてあるんですけど、解約する手順が面倒くさかったり、電話と書いてあっても電話が通じなかったり、メールを投げたらリターンで帰ってきちゃったりとか、そもそも騙してやろうというのが満々にあるわけです。これに関しては例えば大手のFacebookとかですね。私もいろいろ問い合わせをしたりしたんですが、大体答えは一緒で弊社の基準に満ちていますと。つまり、コピー商品を売っていようが、詐欺的なことをやっていようが、Facebook側としては基準に満ちた広告なんですという返事しか返ってこない。従ってそういう広告というのはそもそも信用できないんだという意識を皆さんが持たないといけないんです。提供側が何らかの手段でフィルタリングしてくれるということに期待をしても、ほとんど期待が実現することはない。そういう状況の中で、我々はネットの世界との繋がりというのを持ってしまっている。非常に魅力的なんですよね、広告自体は。NHKで放送されましたとか、東大で研究されてますとか、そういうのを読む。私も、見ていただくと分かると思うんですけど、毛が生えるとかですね、痩せるとかですね、試したことあります。ほぼほぼ嘘だろうと思いつつも試す。やっぱりちょっとは期待しますからね。ご覧の通りで全く効果はないわけです。でもそういうものを平然と売る連中が世の中には掃いて捨てるほどいるわけです。そして、彼らはカモになるだろう皆さんのような一般消費者に狙いをつけて、広告を打ってくる。これに関して言うと、広告を出広している側にも僕は大いなる責任があるとは思ってはいますが、なかなかそこに責任を持っていくことが難しい。となると、我々は守るしかないわけですよね。「自分の身は自分で守れ」っていうことなんですよ。自己責任社会とかいうすごく嫌な言葉が当たり前のようにはびこっている日本ですから、やはり我々は自分でちゃんとリテラシをあげていくしかない。

【特殊詐欺の手口と対策】

そういう中で、私が1番思っているのは、さっきお話がありましたけど、特殊詐欺の増加なんですが、特殊詐欺というのは必ず接点というのがあるわけですよね。1番多いのは、おそらく電話です。電話による呼びかけがあり、それに対して答えることで先が始まっていく。ということは、電話を取らない、繋がないということが最大の防御方法になっていくわけです。残念ながら、やはり我々日本人は大変律儀な民族なんで、電話がきたら取らないといけない、電話が鳴ったらまず取ろうと。よくありませんか?台所で洗い物をしていた、あるいはシャワーを浴びていた、電話が聞こえた、慌てて出るみたいな。そういう習慣が長年培われてしまったわけです。とはいえ、電話というのは、もちろん緊急性がある場合もゼロとは言いませんが、もしその場で出られなくても、大切なものならまたかかってくるわけです。まずは、電話に対してあまり重きを置かないような生活をする。そして、もし固定電話が自宅にあるならば、1番大切なことは、常に留守番の状態に設定しておく。留守番に設定してあると、相手の声はスピーカーから聞こえますから、それから取ればいいわけです。絶対に、すぐ取るという癖をやめること。これがまず第1歩です。だからもし、ご高齢の方、あるいは単身でお暮らしの方が身内にいらっしゃるんであれば、留守番電話を買ってあげる、そして常に留守番でいいんだということを理解してもらう。相手の声が聞こえてから取ればいいんだよと。プラスアルファで言うならば、ナンバーディスプレイを契約して、登録した人の名前が出るようにする。これだけでも被害は相当減ります。実際僕は、特殊詐欺をやっている連中にも取材をしているんですが、彼らに留守番だった時はどうするのと聞いたら、即次の人にかけると。それが基本なんですね。彼らは、朝から晩まで電話をしてるわけですよ。海外拠点の連中が捕まったりしていますけど、ああいう連中は、朝の8時ぐらいから夜の7時ぐらいまでずっと電話をかけるわけです。ですから、無駄なことはしたくないわけですね。「ここは留守番なんだ」ということで次に行くと。これは絶対なんで。電話に出ることで騙されるということを忘れないで欲しい。そして、常に留守番電話に設定しておいて欲しい。これ絶対的なことだと思います。最近はスマートフォンがすごく普及しまして、固定を持たないという人も増えています。スマートフォンの場合は、発信者の識別をしてくれるアプリケーションとかがすでにできていますので、そういうものをインストールすることによって、自分のスマートフォンの電話帳に登録されていなくても、「どこからの電話ですよ」という表示が出ます。さらに、これまた最近増えているショートメールによる詐欺への引っ張りこみに関しても、「これは詐欺メールです」とか、「危険なメールです」といった表示が出ます。このアプリは無料でも使用できますので、そういったものをインストールしておく、あるいは自分の親御さんとか知り合いの方のスマートフォンに入れてあげるというだけでもかなり危険性は下がってきます。スマートフォンの場合も、基本はやはり「自分が登録している人からかかってきた時だけ出ればいいんだろう」と思うんですね。ただそれだけだとやはり「不便」だとか「困る」という人もいるので、ここはそういう識別アプリに頼ることでだいぶん接点が下がっていくんではないかなと。その接点を持たないというので言うと、先ほどから申し上げている、常に留守番電話にする、ナンバーディスプレイを使う、発信者の識別アプリを使う、それから折り返し電話をしない、着信が残っていて出られなかったからといってかけない。これが非常に大切なところです。

同じように、特殊詐欺で増えているのが、パソコン経由のものですね。よくあるのは、パソコンを使っていると急に画面が真っ赤になったりとか、大きな警告表示が出たりして警告音が鳴り続けて止まらないというので、「サポートに電話をしてください」「あなたのパソコンにはウイルスがあります」みたいなことを言ってきて、コンビニまで誘導してデジタルキャッシュで支払わせる。これらのやつは、特殊なものを何か入れているわけではないので、多くの場合はパソコンを再起動するだけで消えてしまいます。ただ、それを知らないと大慌てをしてしまうので、結局この辺の話というのは、どう対処するかの手前に、これは何なのかっていう情報がもう少し広がるといいのかなと。若い人でも、高齢の方でも、パソコンというのは大変便利なものですから、使うのは全然いいんですが、WordとかExcelとかの使い方を教わる人はいても、パソコンで生まれる危険性についてというのは特に教えてくれるところはなかったりします。この辺りは、やはり行政なりが告知を強めていく必要があるんだろうなと私は思っているんですね。特殊詐欺に関しては、やはりこの電話、パソコン、これが圧倒的です。

以前島根にお邪魔した時には、まだ当時は郵便による勧誘というのも結構あったんですね。これは「海外宝くじが当たりました」みたいなやつでくる。連絡を取るとなんやかんや言って手数料を取っていく。今はそれもメールになっていて、「あなたに5億円をもらえる権利があります」。大体連絡すると「ああだ、こうだ」言われて、5万円、10万円、50万円なんていう感じでお金を取られていく。考えていただきたいのは、赤の他人がわざわざ親切に皆さんのために儲け話を持ってきたり、大金をくれたりなんていうことは、常識で考えればないということは分かると思うんです。ところが、そうしたメールなんかでいかにもらしい組織名が書いてあったりすると、「ついに私にもチャンスが来た」なんて思ってしまう人もいる。その発展系にあるのが、これも最近話題になっている『国際ロマンス詐欺』とかですよね。外国人のパイロットであるとか、お医者さんであるとか、そういう人と知り合う。そして、「あなたに会いたいから航空券代を送ってください」「着いたらすぐお返しします」みたいな手口。つい先だって、60代の女性が1200万ぐらい騙されたという事件があって、お金はもう返ってきませんよね。なかなかに面白くて、LINEのやり取りなんかで言うと、「お休みベイビー」とか書いてあるんですよ。「ベイビーは起きた」なんて書いてあって、非常に細やかなやり取り。結局こういう国際ロマンス詐欺というのは、相手への優しさとかいたわり、そして寂しさを埋めてあげるみたいなところから入ってくるわけですね。これで思い出されません?昔あった『豊田商事事件』。金のペーパー商法と言って大問題になりましたよね。あれは圧倒的にやり方がひどくて。ほとんどが単身独居の高齢者を狙って、男性の場合は女性の勧誘員、女性の場合は男性の勧誘員。恋愛だけではなくて、子供のように接するというようなやり方で入り込んでいった。それと同じことが、この『国際ロマンス詐欺』では起きているわけです。やはり、日本もどんどんどんどん家族単位が小さくなってきていますので、1人の寂しさであるとか、あるいは自分の子供がいても遠方に住んでしまってあまり連絡もくれない、頻繁に話す相手もいないみたいなところに非常に親身に寄ってくる。電気が切れたと言えば「取り替えてあげる」とか、ちょっと椅子がガタついていると言ったら「直してあげる」とか、そういうところからこういう詐欺の連中が入ってくるわけです。そのネット版と言われるのが『国際ロマンス詐欺』だと思っていただければまず間違いないかと思います。

私もいろいろなところでこういうお話をさせていただくんですけど、「詐欺かどうかを見分ける方法はないのか」みたいなことを聞かれることがあります。詐欺かどうか見分けるというのは非常に難しいです。今日は弁護士先生とも後でお話しますけども、そもそも詐欺を成立させる要件というのは結構面倒くさいんですね。返済の意思を表明していたりするとなかなか詐欺が立件できないなんていうこともある。、私がよく言うのは、儲け話であろうがあるいは堅実なものであろうが、お金を要求してきたら詐欺だと思った方がいいですよと。お金というものを出させようとしてきたら、これは詐欺なんです。間違いないです。例えば、FX投資の詐欺みたいなものでも、自分が1万円でやろうと思ったらそれでいいわけではないですか。ところが、それでは詐欺師としてはおいしくないから、「1万円だとリターンはこんなものですけど、どうでしょう?10万円にしてもらえれば、さらにこれだけの利益もあります、ボーナスポイントがつきます」みたいなことを言う。この時点で、それは詐欺なわけです。「お金を要求してきたら詐欺」というぐらいに思っておけば、かなり被害率は下がっていくかなと。

あともう1つ、これも大切なことで、市中金利というものがある時に、あまりにもそれと掛け離れた利率を提示してきたら、これは詐欺ですね。有名な投資家バフェットが言っていましたけど、世界有数の投資家の人が、「あなたのリターン率はどのくらいですか」と聞かれた時、「精々2%から3%あったら大成功です」と答えてるわけです。何兆円というお金を動かすような人がですよ。ということは、普通のなんだかわけのわからない人が「年に10%です」とか言ったら、もうその時点でそれはでたらめな話なわけです。そういうことを言ってもなかなか通じないのは、昔はやはり裏金利的なものが実際にあった時代があるんですね。それは、政治家であったり、そういうものを対象にした特別な話で、表には出ない分で、「これだけの金利を保障します」なんていうのがある。それが週刊誌で取り上げられる。それを読む。そして自分のところに似たような話が来たと。「あ、これはチャンスだ」と思ってしまう。中途半端な知識というのは本当に邪魔なので、そういうおいしい話的なものは、絵空事だと思うか、あるいは「一般の人には降りてこない」というふうに思っていた方が間違いがありません。私も長年取材していますけど、本当にそういうことが本当であったことは1回もありませんから。全て詐欺でした。

面白いことに、詐欺というのは、詐欺にあったと気づくまでは、騙される人はみんな幸せなんですよ。夢のような話へ向かって進んでいくわけですから。ものすごく幸せ。ある意味、詐欺というのは、ちょっと幸せを夢見させる犯罪という側面もあるわけです。でも、そう思っているからこそ、逆に騙されたと気づいた時の落差は激しくて、本当に人生が終わってしまうぐらいの衝撃を受けることにもなりかねないわけです。私にしても皆さんにしても、お金というのはとても大切なわけで、しかもそこらで拾ってくるわけではなくて、頑張って稼いでいるわけですからね。それを詐欺師はうまいことかっ攫っていくわけですよ。そして、詐欺に遭う人というのは、興奮状態になっていることが多いんですね。詐欺というのは、相手を興奮させるということもすごく大切なんですよ。冷静にさせてはいけない。では冷静にするにはどうしたらいいんだろう?例えば、女性の方なんか特にわかるかと思うんですけど、買い物に行って「あ、欲しい」という時に衝動買いをしてしまう。私もしてしまう時があるんですけどね。1日置くだけで、「あ、特にいらないかな」という判断ができる。だから詐欺も同じで、契約にハンコを押すのを少なくともその場ではしない。できれば1週間ぐらい、無理でも翌日まで待ってもらう。これだけで被害も減ります。そして、詐欺師はそれになると困るんで、「すぐにやりましょう」「今日やりましょう」「今やりましょう」「今しかないです」「残り枠あと2つです」みたいなことをよく言う。これを最初にやったのはアメリカのテレビショッピングで、今日本でもやってますよね。数字がどんどん変わっていくやつ。「赤色はもうすぐ品切れになります」。あんなの全部嘘ですからね。あんなものは全部適当にやっているだけです。それと同じことなんですね。人を焦らせる。「今しかない」「これが最後のチャンス」みたいなことを言われて、我々は騙されていくわけです。今多分思いついた人もいると思うんですけど、不動産屋も同じ手口を使います。「この部屋はすごく人気があって問い合わせがすごいんですけど、今なら大丈夫です。今なら決められます。どうでしょう?」ということをやってくる。

こういう、人を慌てさせたり、焦らせたり、昔ながらある特殊詐欺の手口で、子供を名乗った人から電話がかかってきて、「今とにかくこの相手方にお金を渡さないと、僕逮捕されてしまうから」とか。で、弁護士役が出てきたり。そういう形でやるのも、あれも親心を刺激して、そして「早くやらないと」「早くやれば、社会にも出ないし、会社にも影響しないし」という心配な気持ちを利用する。これももう冷静な判断ができない状態ですよね。だから、冷静な人が詐欺に遭うというのは本当に少ないんです。どんな人でも、慌てたり、焦ったり、あるいは「子供を助けてあげたい」という気持ち、そこにつけ込んで詐欺師は仕掛けてくると。さっきも言ったように、もし接点を持ってしまった場合ですよね。持たないのが1番いいんですけど、持った場合にはとにかく冷静になる、1度電話を切るといったようなこと。これはよく警察も言ってるんですが、「1時間後にまた電話してください」とか、あるいは「こちらからかけます」と言って、とにかく1回電話を切って自分が冷静になる。それだけでも被害はだいぶん減ると思うんです。本人の携帯に電話をしようという判断、これも自分が電話中だとできないですよね。だから、1回切る。ただ詐欺側もいろいろ考えていて、相手の電話に繋がらないような方法をいろいろやるわけですよ。なので、こういう時には速攻で警察に電話をするというのが最近の対応で、それによって捕まっている詐欺師も結構増えているんで。まずは1度電話を切りましょう、ということですね。

特殊詐欺の中にはいわゆる還付金の詐欺と言って、もうすぐ、来年3月ぐらいになると増えると思うんですけど、「今申し込めば特別還付があります」といったもの。「特別な補助金に申し込めます」とか、あるいは「補助金の順番が早くなります」とか、いろいろなことを言ってきますよね。残念ながら日本の役所はそんなに親切ではないんで、そんな電話はしてきません。でも、そういう電話が来た場合、あるいは「ATMに来てください」みたいな話が来た時も、さっきと同じで1度電話を切る。切って、然るべきところに連絡をする。これだけで被害は減ります。慌てないことと、1度とにかく相手との接点を切り離すこと。1番悪いのは、電話をしながらコンビニに行ってしまったり、ATMに行ってしまうというのが良くない。ただ最近は、コンビニエンスストアの人がだいぶん協力体制になっていて、コンビニで止まるということがとても増えてます。警察の場合もいろいろやるようにはなりましたけど、やはり人員の数の問題とかいろいろ色々ありますので、一概に批判だけができるわけでははないんですけどね。だからこの特殊詐欺に関しては、まとめると、接点を持たない、持ってしまった場合には、冷静になるために1度連絡を立つ、そして自分ではない第3者と話をして、「こういうことがあった」ということを報告していく。もちろん警察でもいいです。この3つの手順を面倒くさがらずにやるだけで、被害から守ることは絶対にできます。逆に言うと、これ以外の方法というのはあまり役に立ちません。詐欺電話防御機能つき電話みたいな、あんなものはクソの役にも立ちませんので、絶対に手を出してはいけません。1万円以下の留守番電話で十分です。できるだけ安いもんでいいんです、あんなものは。それだけでいいと思います。

【マルチ商法について】

それから、これも大切なことなのでちょっと言わせていただきますけど、マルチ商法ですね。マルチ商法というのは、基本的には違法ではないと言っているわけですけど、あれは単に「特商法で決まっている範囲内でやっている分にはいいですよ」というビジネスであって、本来は違法ビジネスだと思って構いません。これがやはり、大学あたりでも非常に被害者が増えていまして、特に成人年齢が下げられましたよね。かつて大学で学生を騙す時は、大学3年まで待ったんです。成人になるまで。しかし今は、入った瞬間にターゲッティングされるわけです。18歳でもクレジットカードが作れますし、お金も借りられますし、親の承諾は必要ないですよね。ですから、これからおそらく2年か3年ぐらい経つと、18歳でやった人たちの被害がはっきり出てくると思います。マルチ商法に関しては現状特商法を破らない限りは摘発できないんで、消費者庁なんかは「マルチ商法というのは、あなたの人間関係をお金に変えて、最終的に全てを失うビジネスです」ぐらいの警告しか書けない。つまるところは、「マルチをやっている=犯罪者」という形にはなっていないんですよ。非常に残念ですけど。ああいう商法というのは、手を変え、品を変え、名前を変え、次々と近寄ってきます。18歳成人と聞いた時に非常に怖かったのが、つい昨日まで高校生だった人間が、18歳で大学生あるいは社会人になった途端に、契約とかの法的行為においてはもう成人として扱われてしまうという。契約というのは、本当に気をつけないといけなくて。どうも日本人は、その辺ちょっと甘々なところがありまして。「いや、取り消せばいいんでしょう」などと言っても、取り消せないですからね、そう簡単には。それが昨日まで高校生だった人が、突然大人として扱われていいカモにされてしまう。これは、本来は法律があっても猶予期間を設けるなり、周知徹底期間を設けるなりしてくれたら本当は良かったんですけども、残念ながら、かつての未成年者の取消権というのは、最早18歳にはないという現状ですよね。だから、皆さんの中の若い方、そして皆さんのお子さんや身内の方、本当に18歳になったということの恐ろしさというものをちゃんと伝えていかないといけない。マルチは、手を変え、品を変えなんで。

一時TBS系列でやっていたと思うんですけど、『事業化集団』という新たなマルチが登場して。これは『最終形態マルチ』とか呼ばれているんですけど、非常に巧妙な手口で接近してくる。いわゆる『駅コン』とか『街コン』とか言われるような、コミュニティ系統のスタイルを取ってくるんですね。何かと言うと、駅や街頭で声をかけて、「友達になりませんか」的なことを言ってくる。「一緒にフットサルやりませんか」とか、「飲み会をやってます」とか。最初の声かけというのは大体、「この辺に美味しい居酒屋さんありませんか」とか、「この辺に美味しいケーキ屋ありませんか」みたいなことで声をかけてきて、そして接点を持っていく。この接点がやはり昔と変わったんですね。やはり今でも、「電話番号教えてください」と言われるとちょっと引くんですよ、みんな。では何かと言ったら、LINEですよね。「LINEの交換しましょう」という感じで近づいてくる。そして、そういう形でまず人間関係を作っていって友人になるわけです。友人になってからマルチへ引き込んでいく。となるとなかなか断りにくくなってしまう。そこを狙ったマルチのやり方ですね。会社なんかでも、先輩とかに誘われたりとかすると断りにくいというのと似ていると思います。女性の場合ですと、よくエステ関係とかで、「先輩の女子社員から連れて行かれて契約しちゃった」なんていうのもよくありますので。人間関係というのは、壊すの怖いですよね。それを言ったがために、「職場でハブられちゃうんじゃない」とか、大学でも「友達いなくなっちゃうんじゃないか」というところをうまい具合に利用してくる。まして、大学というのは、地元の大学へ行くというならいいんでしょうけども、大体は地元ではないところへ行きますから、友達がいないんですよね、行った時に。そこで初めて友達作りが始まる。そして先輩と会う。そういう人間関係を大切にしたいというところから付け込まれるわけです。でも、そんなお金を要求するような人間関係というのは、友達じゃないですから。さっさと断ち切った方がいいんですよ。ところが、大学に行って最初の頃というのは、社会も狭いですし、人間関係も元々狭いですから、狭い中でのみ結果を得ようとしてしまうんですよね。でも、よく考えてほしいんですけど、それ以外にも人間はたくさんいますし、人間関係というのもたくさん作っていくことってできるわけですよ。今いる自分の場所から、円を書くような形で物事を考えずに、一種の蛸壺みたいなところに入らないようにして、外へ広く考えるという形を取らないと、特に若い人とかは狙われやすいですし、場所を移動するということ自体が人間はストレスですから。移動した先で幸せになりたい。そうなると、移動先で自分よりも1年先にいる人、2年先にいる人を信頼しやすくなってしまう。そして、サークルとかに誘われて、気づいたらマルチに入っていたと。

そしてもう1つ。これはもう学生とか関係なく、マルチ商法のもう1つの怖さというのがあって。それは、被害者が加害者になるということですね。騙されてる人が新たに騙してしまう。引き込んでしまう。結果、この人も加害者なんですよ。これが起きるのが、マルチの本当に悲劇かもしれません。よくあるのが、ご近所のママさんの集まりとかで、1人マルチの人がいると、周り中を引っ張っていこうとする。これは、最終的にはそこで暮らせなくなってしまうぐらいの、とんでもない事態を招きかねない。「自分はいいと思ったからやったんだ」っていう理屈は通りませんから。でも、そうなりやすいビジネスだということは、絶対に忘れない方がいいです。人間関係を金に変えるというのは、そういうことですよね。最後の最後は、自分の身内すら一切相手にしてくれなくなる。残ったのは借金と、なんだかよくわからないシャンプーなのなんだのがたくさん詰まったダンボールとかが、山のように積まれていく。そういう家も随分取材しましたけど、ちょっと嫌になりますよ。人間がいるところがないのではないのかというぐらいダンボールが置かれている。たくさんたくさん商品を仕入れても、売れやしないんですから。しかし、たくさん買うことがノルマになっているんで、買わざるを得ないみたいなことになっていく。そのビジネスに騙されて、今度は自分が騙す側になってしまう。これはとても恐ろしいことです。

【不動産関係の消費者問題】

昨年ぐらいによくNHKでもやったかな。『サブリース問題』とか、あるいは『駿河銀行事件』とかがあった時に、『フラット35』という「低所得の人でも家が買えますよ」という制度を悪用して投資用の不動産を買って、結局それが露呈して、「一括返済してください」みたいなことで、自己破産者がすごい増えたんですけど。何が言いたいかというと、それを指導する、間に入るブローカーみたいな連中というのがいるわけです。つまり、自宅用のローンだけど、「黙って借りてしまえば投資物件に使えますよ」と。そして契約する。ところが、その指導したりコーチしたりする人間というのは、契約の場にはいないんですよ。あくまでも契約は、借りた人と機構側でやるわけです。と、何が起きるかと言うと、この契約者が機構なり金融機関を騙したということになるわけです。当然支払い義務も発生します。いくら「私が騙された」と言っても、それは通用しないんです。ということで、悪いことを実行した人間が隠れてしまうような悪質なもの。これもすごく増えています。そして、そういう人間というのは、連絡が取れない。あるいは取れても、「いや私はそんなことを言った覚えがない」という水かけ論が今度始まってくる。それがあったので、いわゆる『駿河問題』というのはとても大きくなって、現在でも救済されない人がたくさんいる。銀行側に言わせれば、「あなたが契約当事者で、あなたがハンコ押したでしょ」と。「我々は貸す側。貸す時に『これは自宅用ですよ』としつこく言いましたよね」と。そして、「あなたも『そうです』と答えましたよね」とやられたら、もう太刀打ちできないんですよね。

これは不動産の中の1つの形ですけれども、似たような契約行為って世の中にいっぱいあります。いわゆる「抜け道があります」とか、「こうすると得ですよ」とか、「Suicaを使って節税しましょう」みたいなものはたくさんあります。YouTubeなんかにいっぱい上がっています。でも絶対やっちゃだめです。発覚すればやった人間の責任であって、教えた人間の責任ではないからです。

【インターネット時代に警戒するべきこと】

やはりコロナになって、リモートが当たり前になってから、YouTube とかを使う詐欺やセミナーや暗号資産、そういうものの勧誘はものすごく増えました。これは、我々がリモートというもののに慣れてしまって、昔であれば「直接会わないと信用できない」と思っていても、この時代になると「リモートでいいや」となる。そして、リモートで見ているもので十分納得してしまう。ある詐欺師に取材した時に、やはり「すごく楽になった」という話がまずあった。それは、相手を納得させるために偽物の札束を積んだりとか、一時的にちょっとリースしてきた高級車を映したり、あるいはそういうイベントスペースを映したり。これも実際にそこまで来てもらうと、やっぱりもうちょっと手がいるわけですね。でも、映像だったらそこだけをうまく映してしまえばいい。それで十分に相手は引っかかってくれると。大体札束というのは、100万円分の真っ白い紙のやつが実際売られていて、上下挟むだけというやつは実際に我々も買うことができるんですよ。横から見たのでは絶対に分からないんですね。それを積んでおくわけです。「今回私は5000万円になりました」なんていうのはそれで十分なわけですし、またよくあるのが、「今私の資産はこれです」と言って見せる。大手のメガバンクとかの残高ですよね。あれもご存知の方が多いと思うんですけど、ちょっとhtmlを知っていれば、数字をちょこちょこっと変えるだけで本物の画面で出すことができるわけです。ところが、その程度で通用してしまうんですね、今の時代は。SNSとかで、よくそういう写真をアップしてありますけど、あれは全部偽物です。そもそも100億円も持っている人が、なんで皆さんにそれを教えるんですか?教えるわけがないですよ。経済というのは、ゼロサムですから。100万円儲けた人がいるということは、どこかで100万円損失が出ているわけです。その損失を増やすような行為を、成功者が教えるはずもないんですよ。でも、「あなたもチャンスです」とか、「限定10人の方だけに特別な方法を教えます」みたいなことを言われてそういう写真を見せられると、「あ、いいかな」と思ってしまう。男性の方なら覚えているかもしれませんけど、昔男性誌とかの後ろの方のページへ行くと、ブレスレットみたいのが書いてあって、「それをつけたら最高です」とか言って、お金に埋もれて、美女に囲まれている写真みたいな広告が昔よくあったんですけど。あれと大差はないんですよ、彼らがやっていることは。むしろあれよりもお金をかけずに宣伝効果が出ていると。インターネット時代になってから、本当にそういうインチキ広告とかは費用がすごく下がてしまったんですね。昔はやはりテレビでやらないといけないみたいなのがあって。和牛預託商法の『安愚楽牧場事件』なんか起きた時は、安愚楽牧場が提供しているニュース番組みたいなのがあったわけです。でも今はそんなことをする必要がないんですよ。ネットでどんどん流して、それっぽいホームページを作っておけばそれで十分。費用対効果がものすごく良くなってしまったんですよね。ですから、ああいうネットで見たものというのはそもそも眉唾だと思うこと。これが本当か嘘かの証明とは無縁であるということですね。いかにそれが大企業のホームページのようにできていたとしてもです。それに、それが信用の保証になるなんていうのは、どこにもないわけです。ただ、そうは言われても、ネットで見ているとやはりそれを見てしまいますし、綺麗であればあるほどしっかりしているのかなと思ってしまう。そういうものを見た時には、連絡先であるとか住所であるとか、そういうところもちゃんと目を配るということができる人はまずはいいんですけど、できない場合は、詳しい人と相談をするというやはりワンステップ。「すぐ、今すぐ申し込めます」みたいなところは絶対にダメです。これはあらゆる契約の時と一緒で、1回冷静になっていくということ。それからネット上はものすごく詐欺師が多いということ。それは、SNSが大手であろうが何であろうが、そこは別に「うちに載っている情報は本物です」なんて保証はしていませんから。「あくまでも広告です」と。「弊社は関知しません」みたいなことを平気で言ってくるんだということ。これをやっぱり忘れないようにしていきたい。そう思います。

【闇バイト問題】

それともう1つ。最近増えている闇バイト。闇バイトという言葉もちょっと良くないなと思うんですよね。それこそ援交なんかと一緒で、ソフトな言葉だけど中身は相当にひどいことをやっているわけではないですか。あんなもの、ただの強盗ですからね。強盗は罪重いですからね。強盗して、しかも相手が怪我でもしたら2桁年ぐらいは確実に刑務所に行くことになるわけですよ。闇バイトが、島根にはまだそんなにないかもしれないんですけど、今後はやはり増えていくと思うんですね。闇バイトが増えた原因というのはいくつもあるんですけど、1つ言えることがやはりさっきから言っているような、お金を持っていれば成功者であるという社会の感覚。一種の拝金主義ですね。それが若い人にも広まっている。ところが現実は厳しいですよね。何10万というお金、そんな簡単に手に入るわけではありません。そういうところに、「短時間で、誰でもできて、すぐにお金になります。100万円になります」みたいなのに引っかかるのが闇バイト。闇バイトは、1度手を染めてしまうと、仮に捕まらなくてもその組織から何度も連絡がも来ますし、いろいろ脅かされたりもするんで、絶対に手を出してはいけないんですけど。これは、防ぐのが非常に難しい。やはりお金が欲しいというのが動機ですから、お金が欲しくない人というのはこの世にいないわけですよ。しかも普通に稼ぐ何十倍とお金が得られる。その誘惑に簡単に勝てるかと言ったら、それはなかなか難しいです。ただ1つだけ言えるのは、闇バイトに参加して捕まった人たちの家庭あるいは地域の環境というのを見ていくと、非常に分断されてることが多いんですね。相談相手がほぼいないんですよ。もちろん親子間の対話なんてものもない。本当に孤立してしまっていて、やはり「お金が欲しい」「お金があればあれができる、これができる」という気持ちだけが増えていってしまう。お金を稼ぐ大切さというのは、親しか教えられないんです、子供に。親がちゃんとそういう話をしてあげることというのはすごく大切ですし。親のみならず親戚でもいいですし、昔ならば近所のおじさんたちみたいなのもいたんでしょうけど。つまりは、闇バイトを生み出してるのは我々大人なんです。大人がごまかしたり、嘘をついたり、そして大人も「金が欲しいね」みたいなことばかり言っている。そういう環境の中で子供とは育っていくわけですから。そしてYouTubeなんかを見れば、そういう連中が偉そうにしている。さらに、テレビにも出てきて偉そうに喋る。みたいなのを見ていると、「あ、金を稼げばこういうふうになれるんだ」と思ってしょうがないと思います。これは子供の責任ではなくて、我々及び我々が属する社会の責任ですよね。しかし、自分の子供であれ身内の子であれ、闇バイトなんかに手を染めてもらったら困るわけですから、ここはやはり会話のチャンスというのを少しでも増やしていくこと。そして、本当にお金が欲しくて、目的がはっきりしていて、金額もはっきりしているなら、「まずはそっちに相談をしなさいよ」と、「全て叶えられるかどうか置いといても」みたいな日常的な会話ですよね。

ちょっと話がずれますけど、昔『送り付け詐欺』というのがすごく流行ったことがあって、頼んでもいないものが代引きで届いて、家にいる人が、大体奥さんですけど、払ってしまう。そういう家庭って、夫婦間での普段の会話がない家庭なんですね。ちゃんとした家庭は「今日代引き来るからね」と旦那が言うわけですよ。でもそういうことを一切言わない家庭が続々とやられて、しかも5000円ぐらいですから払ってしまう。訪問系のしきい値みたいなのがあって、1万円超えると回収率悪くなるんですよ。奥さんたち、1万円はねちょっと警戒なんですよね。5000円ぐらいだと払ってしまう。そういうことがあった。それと全く同じように、闇バイトのようなものに行ってしまうということは、そもそも家庭や地域にストッパーがないことがすごく大きいと思うんですね。親が嫌ならば親じゃなくてもいいんです。そういう真面目と言ったらあれですけど、真っ当な考え方のできる友人であったりとか、そういう人との普段のコミュニケーション、コミュニティを持っていればかなりの歯止めがかかるはずなんですね。

報道とかそういうんで言うならば、やはりやって欲しいのは、「闇バイトで捕まったらこのぐらいになったよ」という懲役刑の発表ですね。とんでもないことになるというのを、数字でちゃんと見せる必要があると思うんです。一過性報道ではなくて、これは行政でも何でもいいですけど、一覧表をきちっと作るなりして、「平均懲役が10.5年です」みたいなものをちゃんと見せていく。「ものすごく高い代償だよ」と。精々100万円ぐらいの報酬欲しさに強盗をしたら、捕まって10数年間刑務所に入る。これは嘘でもはったりでもなんでもない。現実ですから。それをどんどんどんどん、しつこいぐらいに見せていく。「怖いことなんだよ」という。誰しも犯罪を犯してしまう可能性ってあるんですけど、それは激情的なものですよね。カッとしてしまって人を殴ってしまったとか、頭に来たんで車を乱暴に運転したらぶつかったとか。でも、詐欺とかこういう闇バイトというのは、計画性でなされているものですから、入らないで済むんですよ。入るってことは自分が決めることですよね。決めさせようと向こうはしてくるわけです。その時に、これもさっきの詐欺と同じで、冷静さに戻るためには、1人では無理なんです。誰でもいいです。兄弟でもいいです、親でもいいです、友達でもいいです。「やってみようかと思うんだけど」みたいなことを言って、反対してくれる人ですよね。そういう人たちが周辺にいるかいないかというのは、ものすごく大きなことです。

【地域コミュニティが被害防止の鍵】

残念ながら、今の日本だと、島根はまだいいらしいんですけど、地域コミュニティというのがどんどんなくなってきていて。そもそも、誰が隣に住んでいるのか知らないというのは、私東京でマンションに住んでいるんですけど、両隣の人に会ったことがないんですよ。そもそも東京のマンションに引っ越しますよね。隣の人に挨拶に行くというのがないんですね、最早。そもそも挨拶に行くと嫌がられるんですよ、「変な人」だとか言われて。タオルを持っていくなんていう習慣がもうないんですね、都会には。そういうところでコミュニティを作ろうというのは、ちょっと難しいかもしれませんが、少なくとも、「まだ」と言っていいのかどうかわからないですけど、1億4000万程度の被害のうちに止めておくことが、島根県の場合は可能性としてできると思うんですよ。それに地域コミュニティもまだ残っています。元々の人間性というのもあります。そういうものを加味しますと、今のうちに手を打てば、少なくとも島根県の被害は大都会のようになってしまわない。人口とか人数は関係ないですから、詐欺は。狙われ出すと、「あそこは行ける」になるわけです。世界中から電話ってできるわけですからね。実際捕まってますよね。タイだのあっちの方で。だから、島根県だから安全なんてことはもちろんないですし、島根だから被害がこの程度で済むなんていうのもちょっと甘い考えで、放っておけばどんどん増えていく。闇バイトも同じことですよ。闇バイトというのは、地元でやるわけではないですからね。実際に起きている事件でも、地方から遠征してきて事件を起こすわけです。ということを考えると、やはりまだまだ多少なりとも他よりも地域コミュニティが残っている島根県の場合は、そのコミュニティを大切にしていくことと、より広げていくことと、そして情報共有をしていくことみたいにやるだけで、よその県よりも被害を止めることというのはできる可能性があるわけです。

島根ではなくて、僕が前にNHKの仕事で四国に行った時ですね。愛媛県松山市、あの辺で取材をしますと、同じ愛媛県松山市でも、地域コミュニティが活発化しているところと衰退化しているところ、当時ですから訪問販売詐欺みたいなのが多かった頃で、圧倒的に地域コミュニティがしっかりしているところが被害が少ないんです。というのはですね、そういう人が訪ねてくると、「変なのが来た」という情報があっという間に広まるんです、町中に。ところが、地域コミュニティが希薄なところだと、「騙されました」「騙されました」「騙されました」が半分ぐらい行かないと伝わらないんですね。と考えると、いかに地域による防犯意識というものが大切かということを如実に感じたんです。

今ちょうど僕がやっている『カモのネギには毒がある』で、もう終わりますけど、地方編と称して地方の活性化話みたいなのをやっているんですけど、公金が関わるところにも悪いやつというのはいっぱい来るわけですね。公金だから「僕ら関係ないじゃん」とか思うかもしれないですけど、公金というのは我々の税金から発生していますので、公金被害が出るということは、我々に被害が出ているということで。地方を活性化するというと非常に耳ざわりがいいんですけど、地方で活性化というのは、箱物を作ったりとかモニュメントを作ることではなくて、ここに住んでいる人々が楽しく生き生きと暮らすことが、地方活性化なわけですよ。ということは、そのベースとは何かと言うと、やはり繰り返しになりますけど、地域間の交流であったりとか、地域のベースになる家庭であったりとか。要は、1人1人というよりは、最小限の人間関係単位ですよね。そこがうまく機能しているかどうかということ。そこにもっとお金を使って欲しい。せっかく億単位で国が金をばらまくんであれば、コロナの時にイカのモニュメントとかを作っていたところは、本当びっくりするぐらい頭が悪いなと思うんですけど、何に使っていいかわからないんですよね。突然自治体もお金をもらうと。ところがあれは、年度末の期限があるので使わなきゃいけないという縛りがある。本当はあんなものは3年ぐらい猶予を与えて、有効活用してくださいとやればいいんですけど、お役所仕事ですから、年度切りというのをしてきますから。そうすると大慌てで役に立たないものを作ってしまう。 

そういうふうに、いろいろなところで我々は今ダメになってきている。長年の金属疲労で、日本という国自体がダメになりつつあるというところに、我々は今暮らしているわけです。ダメになっているから、ダメの隙間を狙って悪いやつがどんどん出てきている。国を変えることはそう簡単ではないでしょうけど、少なくとも悪人から身を守るということは、いくつか手段はあるわけですから。そこは忘れずに。非常にあんまり言いたくないんですけど、昔から言いますよね、「人を見たら泥棒と思え」と言う。非常に嫌な言葉かなとは思うんですけど、今の日本はそれでいいと思います。自分以外を簡単に信用しない方が絶対にいいです。泥棒と言うと語弊がありますけど。同じことですよね。人の財布に手を突っ込んで金を取っていくようなものなわけですから、騙す連中というのは。だから赤の他人、赤の他人というよりも自分以外の人間に対する警戒心を強く持っていないと、我々はカモの側に回されてしまう。そしてそれを騙すことに快感を覚えている連中もたくさんいる。騙す側は「自分は頭がいい」と思っていますからね。「頭がいいからバカから金を取るのはいいんだ」ということを平然と言い放すのが彼らです。また、「お年寄りの方はお金をあまり使わないで持っているだけだから俺たちがそれを代わりに使ってやっているんだ」みたいなことを平然と言う。そういう連中がどんどん増えている社会です。我々は、そういう悪い連中を捕まえたり、こらしめたりはできないかもしれないけれど、少なくともそこに餌となるような、お金を渡さないということはできるんです。それを常に肝に命じて、毎日を過ごしていく。あるいは、自分の知り合いであるとか、親御さんであるとか、身内であるとかに、「こういうことらしいよ」みたいなことを伝えてあげたり。まず第一歩として、留守番電話をぜひぜひにやってほしい。代わりに設定もしてあげて、ナンバーディスプレイもやってあげて、そのぐらいはしましょう。自分の親あるいは親の兄弟とか、あるいは友達のご高齢の親御さんがいるとか。今本当に認知症の方も増えているんで、ますます狙われているので、ちゃんと後見人とかをつければいいんですけど、それもなかなか進んでいません。そういう悪質な連中が次々と、皆さんの家、皆さんのご親戚、皆さんのご友人を狙っているのが今の日本なんです。ですから、「知らない人はみんな自分の敵だと思った方がいいよ」ぐらいのことを、残念ながら言わざるを得ない。

ここで実は地域コミュニティというのは生きてきて、コミュニティがある程度の大きさがあれば、そこ以外の人と接点を持たなくても日々を過ごせますよね。結局、悪いやつと接点を持ってしまうということは、非常に狭い世界で生きているからなんですね。狭い世界で生きているから、寂しかったり、楽しくなかったり、そこに親切面した外の人間が入ってきても、避けられなくなってしまう。結果、「あの人はいい人だよ」話になっていく。よくあるんですよ。田舎に突然帰ると、ものすごいでかいテレビが置いてあったりする。「誰が見るの」みたいな。妙に高いパソコンが置いてあったりして。「いや、使い方わかんないんだけど」みたいなことがある。そういうことをやっているのが、詐欺師ならまだしも、量販店の営業マンとかがやっているわけですよ。そういうことも考えて、お金がかかる話を持ち込むやつをいかに排除していくか、いかに接点を持たないか。それから、「なんかあったら電話してね」という関係ぐらいは持っていたい。やはり、「何か決断する時は僕に私に連絡してね」ぐらいの、親子関係であったり、身内関係であったりは最低限構築しておきたいなと。一緒に住んでいれば1番いいんでしょうけど、それはなかなか昨今難しいですからね。せめてコミュニケーションのパイプは潰さない、切らないというようなことをやっていただけると、被害額も減っていくだろうし。そして、繰り返しになりますけど、島根のように地域コミュニティが生きている地域では、これ以上の被害を増やさない、これ以上のコミュニティ破壊をしないというようなこと。これは本当に、県民一体化して、もちろんセンターであるとかそういうところの協力もあってですね。私は、全国の模範例になるように、皆さんにはちょっと頑張っていただきたいなというふうに思っています。拙い話ですが、大体以上で私の話を終わらせていただきたいと思います。どうもご清聴ありがとうございました。

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