特定商取引法及び預託法の書面交付義務の電子化に反対する意見書

 

 

                  

内閣総理大臣 菅 義偉 殿

内閣府規制改革推進会議議長 小林 善光 殿

内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全) 井上 信治 殿

消費者庁長官 伊藤 明子 殿

消費者委員会委員長 山本 隆司 殿

衆議院議長 大島 理森 殿

参議院議長 山東 昭子 殿

 

 

 当団体は、2019年(令和元年)12月、島根県内の消費者、消費者団体、消費者問題に携わっている諸団体、専門家、行政等が連携・協力して、消費者被害がなく、豊かで幸せな暮らしができる持続可能な社会を創ることを目的として設立された団体です。

 政府は、2021年(令和3年)3月5日、特定商取引法と預託法の改正法案を今国会に提出しました。当団体は、この改正法案のうち、販売預託商法の原則禁止や、詐欺的な定期購入商法、送り付け商法に対する規制強化に向けた改正には賛成しますが、契約書面を電磁的方法で交付することを可能にする改正には強く反対しますので、下記のとおり意見を述べます。

 

                 記

 

(1)書面電子化の議論はまったく尽くされていません!

 

契約書面の電子化の議論は、内閣府規制改革推進会議成長戦略ワーキング・グループの会議の場で、オンライン英会話指導サービスを例に挙げ、書面交付義務があるために契約がオンラインで完結しないとの問題提起がなされたことが契機となりました。

確かに、オンライン取引ではこうした議論が生じることも考えられます。ところが、今般の改正法案では、議論の端緒となったオンライン取引(特定継続的役務提供)を超えて、店舗販売や訪問販売等の対面取引を含む特定商取引法のすべての取引類型について、契約書面の電子化が容認されています。

契約書面の電子化については、これまで消費者庁の検討委員会でもまったく議論されていませんでした。その場で書面交付が可能な対面取引にも電子化を認める意義や必要性は、一体どこにあるのでしょうか。消費者トラブルの実態を踏まえた慎重な議論をすることなく、突如として改正法案を提出し、審議を進めることは、あまりに拙速な対応といわざるを得ません。改正法案の内容も問題ですが、それ以前にこうした議論の進め方自体、消費者保護の理念に悖るものといわなければなりません。

 

(2)書面交付義務の消費者保護機能が損なわれます!

 

 特定商取引法等の定める書面交付義務は、不意打ち的な勧誘を受けたり、儲け話に乗せられたりして、内容を十分に理解しないまま契約しがちな消費者に対し、契約の内容を改めて確認させ、冷静に考え直す機会を与えるために課されたものです。この書面交付義務を前提として、消費者には、法定の書面が交付されてから一定期間内であれば、無条件に契約を解約できる権利(クーリング・オフ)も与えられています。

このような重要な機能を有するがゆえに、契約書面は法令で記載事項が詳細に定められています。特に、クーリング・オフに関する事項については、8ポイント以上の大きさの活字で、赤枠内に赤字で記載することまで求められています。書面交付義務があるからこそ、消費者は、交付された書面を一覧するだけで契約内容を知ることができ、クーリング・オフの権利の存在を容易に認識することができるのです。

 しかし、契約書面の電子化が容認されると、契約書面が担ってきた消費者保護機能が損なわれてしまう危険があります。スマートフォンの画面で表示される文字は小さくならざるを得ませんし、電子データには紙のような一覧性もないため、消費者に不利な条項やクーリング・オフに関する記載の存在に気づく可能性が大きく減少することになるからです。これは消費者保護の後退にほかなりません。

 

(3)消費者の承諾は被害の歯止めになりません!

 

 改正法案では、電子データによる契約書面の提供は、消費者の承諾が要件とされています。この点については、消費者が納得して承諾することを条件とする限り、電子データによる提供を容認することは、スマートフォン等の操作に慣れた消費者の側から考えても利益になると説明されているようです。

しかし、情報や交渉力等の格差により事業者の劣位に置かれている消費者は、契約書面の電子データによる交付を、事業者から求められるまま安易に承諾してしまう可能性が否定できません。また、パソコンやスマートフォン等の情報関連機器に不慣れな消費者の場合、後に冷静になって契約内容を確認しようとしても、交付された電子データを見つけ出せない可能性も高く、被害の救済が困難になるおそれがあります。

 

(4)高齢者の消費者被害が潜在化してしまいます!

 

 私たちの暮らす島根県は過疎化や高齢化の進行が著しく、単身の高齢者世帯の割合が多くなっています。

高齢者をターゲットにした悪質な訪問販売等の被害は、定期的な居宅訪問等により高齢者の見守り支援を行う消費者団体や民生委員の方が、不審な契約書面を見つけることによって発覚する場合も少なくありません。こうした事案では、見守りの支援者から消費者センター等へすみやかに被害情報が引き継がれるため、被害の救済や新たな被害の防止に結びついていきます。

しかし、契約書面が電子化されると、スマートフォン等の電子機器の操作に不慣れな高齢者は、そもそも電子データを開くことすらできない可能性がある上、契約書面が目に見える形で存在しないために、家族や見守りの支援者等が消費者被害に気づくきっかけまで失われるおそれもあります。そのような事態になれば、高齢者の消費者被害が潜在化してしまうことになりかねません。

 

(5)だから、私たちは「契約書面の電子化」に強く反対します!

 

 契約書面の電子化は、契約書面の果たす意義を不当に軽視するものであり、超高齢社会における高齢者の保護や成年年齢引下げを1年後に控えた若年消費者の保護の要請からも逆行するものといわざるを得ません。

よって、当団体は、特定商取引法及び預託法の改正法案のうち、契約書面の電子化を容認する部分には強く反対します。

以 上

​                2021年(令和3年)3月30日

〒690-0884 島根県松江市南田町55番地3

消費者ネットしまね

代表 朝田 良作(島根大学名誉教授)

電話番号:0852-32-5272

 FAX番号:0852-32-5282

E-mail:showhisyanet.shimane1@gmail.com